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「はじめての京劇」 小林孝徳氏へインタビュー

 11月7日、「はじめての京劇」というイベントがFOREST GATEWAYにて行われた。本イベントは日本における京劇の認知度を広げるために開催されたものだ。当日は、実際の京劇俳優の方が派手でありながらも美しい立ち回りを披露したことで、会場はかなり盛り上がっていた。その立ち回りを披露した京劇俳優の一人は、小林孝徳氏である。彼は、中央大学の文学部中国言語文化専攻の学生でありながら、現在プロの京劇俳優として活躍しており、次回の舞台では準主役として役を演じるそうだ。当部会では、小林氏へのインタビューを行った。



快く撮影に応じてくれた小林氏


 京劇の道を選んだ青年の貴重なインタビュー内容を、以下に記す。(聞き手:江崎、板谷)


 

――京劇をやることになったきっかけを教えてください。

最初に京劇に出会ったのは、中学2年生の頃です。もともと中国の文化に興味があって、様々な動画を漁っていました。そこで京劇を見つけ、稲妻に撃たれたような衝撃を受けました。そこから一気に引き込まれ、関連することを検索したり、動画を見たりするようになりました。そのうち実際にやってみたいと考えるようになり、東京で開いている劇団に入りました。


――劇団には、いつ頃入りましたか。

中学の頃です。ですが、実家が群馬にあるので、年に一回程度しか参加できませんでした。本格的に毎週通うになったのは、大学に入ってからです。


――小林さんは現在新潮劇院さんに所属されていますよね。なぜ、そちらに入ろうと考えたのでしょうか。

元々劇団の師匠が新潮劇院の主催ということもあり、その縁で所属することになりました。しかし、その一方で、日本に大きな舞台を開けるような劇団がなかったため、他に選択肢が与えられていなかったということもあります。


――学生生活において、京劇を意識して行っている活動などはありますか。

京劇を意識して活動していることですか…。答えになっているかは分かりませんが、大学受験の頃も科目は中国関連のものしか考えず、現在の学部に入学しましたね。講義の選択も、なるべく中国文化に関係しているものをとっています。


――学部学科自体が京劇の役に立っているということでしょうか。

そうですね。今の学部学科に入り、中国語を大分理解できるようになりました。あとは、日本で1番京劇に詳しいとされている教授が、中言で講義されている教授と知り合いだったんです。そういった人との繋がりを京劇を通して感じられるところは、おもしろいです。


――京劇における役作りの際、何か気をつけていることはありますか。

私はサークルでミュージカルをやっているのですが、京劇と比べると、やはり違う部分が多いと感じます。普通の演劇だと、人物に合わせて気持ちを作ったりします。ですが、京劇は役の動きや表情が決まっているんです。役作りをするというよりも、その様式をどれほど正しく表現するかについて意識します。 


――京劇をやっていてやりがいを感じる瞬間はいつでしょうか。

狙ったところでお客さんがウケてくれたら、やっていてよかったなと思います。お客さんを喜ばせられたら、やはりやりがいを感じますね。また、伝統文化の継承という点から、自分の先生から教わった芸を違う先生に褒められたりすると、うまくできてるんだなって安心します。伝統文化を体に落とし込めているって感じる瞬間がやりがいかなと思います。先生からの口伝によって初めてできる文化でもあるので、正解が分からないまま練習していくんです。それが、先生たちに褒められたり、うまく合致したりすると、やってきた甲斐があったなと感じますね。


――小林さんは、将来的にどのように京劇と関わっていくつもりなのでしょうか。

日本で京劇の舞台に立とうかと考えています。中国でやるとなると、やはり外国人ということがハンデになってしまうので。あと、日本で京劇を広めていきたいというのもあります。


――具体的に京劇を通じてやりたいことはありますか。

大きな舞台で京劇をやりたいですね。我々は、普段300人から500人くらいのキャパシティの劇場で活動しています。これが、もっとお客さんを集客できるようになって、3000人くらいのキャパシティの劇場で一回でも話を進められたら、日本に京劇を広められたなっていう実感も湧くんじゃないかって思っています。


――日本で京劇の道を歩むとはいえ、勉強の一環として本場の中国に行きたいとは思わないのですか。

本当は思っているんですよ…。ですが、コロナで戯曲学校の留学がオンラインになってしまって…。動きが大切なので、オンラインではやりづらいんですよね。対面が再開されてから行きたいです。できることならすぐ行きたいくらいです。


――言語の壁は深刻そうですね。そういえば、日本で行われるような京劇でも、中国語は使われるのですか。

私の所属する劇団は新しいことを積極的に取り入れるため、日本語の台詞なども混じっていたりします。ですが、主軸となるのはやはり中国語ですね。それも古典中国語にあたるものなので、現代の中国人の方でも聞き取れないような中国語を使います。現代に近いものではあるのですが、独特のリズムがあるので、聞き取りづらいんです。


――これまでのお話を聞く限り、日本人は京劇と馴染みがないように思います。では、日本人でも馴染みやすい演目というのは、あるのでしょうか。

やっぱり孫悟空ですね。立ち回りが激しいので、見ていて楽しいです。通な方でも、孫悟空を見て楽しんでいます。老若男女問わず、中国でも親しまれていますね。あとは三国志ものや水滸伝などが分かりやすいと思います。


――これまでに京劇を広める活動などはなかったのでしょうか。

昔は年に一回来日公演があったんですけど、それを招致している団体が解散してしまいまして。そういった劇場の少なさっていうのが、昨今のコロナ情勢と輪をかけて、京劇の市場を狭めているんじゃないかって思うんですよ。


――今回のように、大学でイベントを開催するっていうのは、珍しいのでしょうか。

珍しいのかなあ。少なくとも、うちの劇団がこういった講演会を開くっていうのは、なかなか聞かないですね。小学校に行って講演するなどの活動はあるみたいなのですが。若い人が触れる機会を増やしていきたいと考えているので、大学がこうやって機会を与えてくれるっていうのは、とても有り難いです。


――先生によって、稽古のやり方が変わったりすることはありますか。

変わりますね。具体的には、北京と上海で変わります。昔から、中国では北京と上海と天津で京劇が盛んに行われていました。土地柄、北京は伝統を重んじ、上海は先進的な文化を持っておりますので、若い人がやりやすいみたいなところがあります。それが今の俳優の方にも少し反映されているところがありまして、北京の先生には伝統をしっかり重んじ、やるべきことをやるように言われます。逆に上海の先生は、お客さんがどうすれば喜ぶかなど、エンターテイメント性が高いですね。 


――結構違いがあるんですね。考え方がそこまで異なるなら、上海と北京でバチバチしたりとかは…?

バチバチはあまりないですね笑。基礎は同じなので。突き詰めていけば、同じところにたどり着きます。

そうそう、おもしろいのが、京劇は電話で打ち合わせができるんですよ。動きにはすべて名前がついていて、電話で指示を出されただけで、大体何をすればいいのか分かるんです。綺麗に見える動きを先人たちが勉強してきたんだな、って感じがします。


――やっていて、先生たちの動きが特別綺麗だと感じることはありますか。

ありますね。やっぱり、先生たちの動きは自分の及ばない美しさを感じます。私の師匠が芸歴が50年くらいなんですけれども、50年もやっているとさすがに違いますね。腕の形、歩き方、姿勢、何をとっても綺麗です。そういう先生のすごさというのは、一緒にやっていると分かります。


――その美しさに近づくのは、やはり練習が大切なのでしょうか。

練習量は大切ですね。ですが、それだけではなく、自分で気づくっていうことも大切である気がします。自分で自分の姿を鏡や動画で確認し、自分で間違いに気づいて自分で正して行かなければなりません。先生達から能動的に受け取るというのと、自分から能動的に気づくという、2つの側面が必要なのかなと思いますね。


――小林さんはかなり積極的に練習されているんですね。

そうですね、近所の公園に行って、基礎練習量をしています。普段からやらないと体がなまるというのもありますし。あと、中学2年生で京劇を始めるのって、遅いんですよ。だから練習にも力を入れています。


――中学2年からやっているのは個人的には早いと思うのですが…。

本来なら小学校上がる前くらいから始めていなければいけないんです。中国では、京劇は学校教育でやっているんです。小学校から大学までしっかり教育課程として定められているので、小さい頃から養成されていくわけです。しかも、整体に行ったとき、遺伝的に体が堅いと言われました。そういった自分に不利な条件もあるので、練習もしつつ、動画などで確認を組み合わせて稽古をしています。


――では、京劇をしていてご苦労されることも多そうですね。

苦労は日々してますね笑バレエダンサーくらい体の柔らかいことが普通の世界ですし。また、体質的に運動神経があまり良くないので、バク転などができず、表現の幅がかなり狭まってしまっています。中国語を勉強はしていても、まだまだ言語の壁はありますしね。


――小林さんは、京劇の道を歩むと決められているようですが、その発想に至るまで、葛藤はあったのでしょうか。

今3年生ということもあり、途中まで就活をとかやっていたんですよ。でも、心のどこかで京劇をずっとやりたいって気持ちがずっとあったんですよね。自己分析する中で、そのことに気づきました。就活生なんてたくさんいるのに、京劇をやる大学生なんてほとんどいないじゃないですか。ここで京劇を辞めるのは勿体ないなと思って、京劇を続ける決断をしました。


――小林さんは、京劇への想いが強いですね。

人一倍でしょうね。ずっとスマホから京劇を見ていますから。同じ教室の人たちからも珍しいと言われます。


――今回は日中国交正常化50周年を記念としたイベントに出ますが、小林さんは何か思うところはありますか。

政治と経済の側面では、様々な軋轢を生んでいますが、それと文化はまた毛色が違うと思うんです。文化というのは、誰でも受けることのできる自由なものですから。一人の人間が日中友好の架け橋のような存在を目指すのであれば、そういった芸術の持つ自由な側面をフルに活かしていかなければならないと思います。そこからアプローチするのが、我々の指名であり、仕事として生きていく面で大切にしていかなければならないところかなと思います。


――最後に、小林さんのように京劇を志している学生や、伝統芸能などの数少ない活動をされている学生に向けてメッセージをお願いします。

伝統芸能は既に土台がありますから、しれをしっかり自分の体に落とし込んだ上で、お客さんにすぐ見せられる準備が必要です。なので、普段からの訓練を怠らずに一緒に頑張りましょう。夢を信じて突き進んでいけば、きっと誰かが見ていてくれるでしょう。


(江崎)

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