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執筆者の写真中央大学新聞

【波紋】日常に散らばっているメッセージ

 東京で桜が開花したらしい。桜の花言葉は、「精神 美」「純潔」。確かに、桜を見ていると心が洗われる。毎年、多くの人が桜の名所を訪れるのも納得である。ところで、花言葉とはなんだろうか。調べてみると、花言葉は「花などの植物に対し象徴的な意味を持たせるもの」だという。例えば、オリーブなら「平和」、バラなら「愛情」を表す。一種のメタファーだ。その花を見るだけで人々は、象徴的な意味を読み取る。

 人に何かを伝えるのは、言葉だけではない。様々なところにメッセージは隠れている。私は、よく喫茶店で勉強する。長居をしていると、店員の方が空いたお皿を片付けにきたり、「お水をお注ぎしましょうか」と尋ねられる回数が増えてくる。間接的に、席を空けるように促しているように思え、なんだか居心地が悪くなる。自意識過剰と言えばそれまでだが、京都の人の「お茶漬けいかが」が「帰れ」のサインと聞いた時は、震え上がった。日常生活だけでなく、外交の現場でも隠されたメッセージがあるらしい。

 2015年10月、中国の習近平国家主席がイギリスを訪問した。この時、習氏を歓迎する晩餐会がエリザベス女王主催で開催された。豪華な料理に招待客が舌鼓を打つ中、出されたワインは、フランス・ボルドー産のシャトー・オー・ブリオンの1989年もの。そう、1989年は、中国にとって最も触れてほしくない「天安門事件」の年だ。「天安門を 忘れない」というメッセージだろうか。それとも深読みしすぎだろうか。真相は闇の中である。英国王室は、その性質上、表立った政治的発言はできない。だが、こういったところで密かなメッセージを発しながら、外交をしているのかもしれない。

 ともあれ、自分の言いたいことを相手に適切に伝えるのは、非常に難しい。「ハラスメント」という言葉がある。最近では、これに派生する言葉が乱立している。 「セクシャル・ハラスメント」などは昔からあるものの、正論で相手を追い詰める「ロジカル・ハラスメント」さらには、「ハラスメント」を受けたことをしきりに訴える「ハラスメント・ハラスメント」など、なんだか整理が追いつかない。全てに共通するのは、コミュニケーション不足ではないか。もちろん悪意があれば大変な問題だが、悪意なく他者に「ハラスメント」をしてしまう場合もある。この場合、相手に自分の意図をきちんと伝えられておらず、あらぬ誤解を与えてしまっているのではないか。

 コミュニケーションは、双方向的なものだ。自分の意図を相手に正しく伝えると同時に、相手から正しく受け取ることもまた大切だ。そういえば、「試験」もそうだ。試験は自分の答えたい解答を用意するのではなく、出題者の意図をきちんと汲み取り、答えることが必要である。新入生の皆さんは、 その問題の意図を汲み取ることに見事成功したのだ。

 ただし、大学では、時に相手の意図を忖度せず「空気を読まない」作法もまた価値がある。というか、「空気を読まない」のが学問だ。歴史的にも、底知れぬ好奇心に動機づけられた研究が、イノベーションを生み出してきた。社会の要請によるものというより、むしろ社会の潮流に逆行するようなものも多々あった。私も、残り二年のモラトリアムで、自由に知識の花を「満開」に咲かせたいものだ。

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